ローマの休日
1953年にアメリカで公開された映画「ローマの休日」について考察してみます。
観てすぐにはこの作品の芯に触れることができず、途中もずっと「ああ、アメリカで作られた映画なんだなあ」と感じていました。
物語の舞台はローマ。オードリー・ヘプバーン演じるアーニャ女王もヨーロッパのとある国から来た人物。
これだけ聞くともっとヨーロッパの要素が強くてもいいのでは?と思っていました。
本編中ではあまりそういった要素を感じません。ローマの至る所を巡るのですが。
そもそもヨーロッパ要素って何のこと?
という話ですが、要するにヨーロッパ側の視点があまり描かれていないのです。
しかし、この作品に秘められたエピソードを辿っていくと、
実は全て意図して作られた構成ではないかと段々と気づかされるようになりました。
●戦災を受けた国とそうでない国と
第二次世界大戦を終えてすぐのローマでロケを行ったこの作品は、映画と現実の時代が同じ時代です。
1950年代に入り一気に復興が進んだイタリアは、確かに作中で描かれたような明るく楽しい空気がどんどん広がっていました。
しかしそれは戦争を経験した後の空気であり、戦災を経験せずに早くから発展したアメリカの楽しい空気とはまた異なります。
もっとも、多くの国を巻き込んだ世界大戦の後にはわざわざ説明する必要がなかったのかもしれませんし、
あるいは描こうとして描けるものではなかったのかもしれません。
監督のウィリアム・ワイラーはユダヤ系の出身ですが、幸運にもナチスドイツの惨劇が起きる前にドイツを離れていた人物でした。
後にアメリカ空軍に在籍し、戦時下の故郷に向かうも親族に会うことはとうとうなかったようです。
それが理由かはわかりませんが、理想の風景を閉じ込めるかのように、この作品は身分が違う男女の関係が美しい街で変化する様子を描くことにほぼ終始しています。
「綺麗×綺麗×綺麗」の応酬。もちろんそういう癒しに満ちた世界観も良いものです。
色んな人が癒しを求める時だってあります。自分だってそうです。
それが後半になり、一気に描かれていなかったに側面に近づきます。
一つが、王女が自分の王女たる責任を実感する「祈りの壁」を紹介されるシーン。
祈りの壁はほんの10年前までイタリアで戦争が行われていたことを示す場所でした。
その瞬間から彼女は国の代表として自らの責任を果たす人間へと変わり始め、ラストシーンでのセリフに繋がってゆきます。
ちょっと伏線や人物背景が無さ過ぎてご都合主義な所はありますが…。
この映画でのオードリー・ヘプバーンは愛嬌に満ち溢れていてます。もはやあざとい程。(笑)
その可愛らしさもあざとさもあまりに強くて、この作品の表にある光(ヘプバーンの存在)はものすごく強くなってしまった。
しかし、実は彼女自身もヨーロッパでの戦争を体験している一人なのです。
彼女のキャリア黄金期の始まりになったローマの休日でしたが、晩年のユニセフにおける活動なども実はこの映画が転機になっていたのかもしれません
見目の美しさと愛嬌と言う理由だけでなく、彼女はこの映画に最適のキャストだったのかもしれません。
●裏切られないものは何か
もう一つは映画だけからは決して見えない部分です。
今では周知の元となりましたが、脚本家のダルトン・トランボは当時名前を出すことがかなわない状態に陥っていました。
その原因はハリウッドにも蔓延してきた「赤狩り」にあったのですが、監督のウィリアム・ワイラーはハリウッドのこのような現状に懸念を抱いていたとされます。
そこで、アメリカらしさを詰め込んでキラキラしたこの映画の中に、かすかな希望として彼の本当の願いを潜ませていったのではないかとされています。
「王女様の信頼は裏切られないでしょう」と言い、自分たちの関係を清算する2人。
それは恋物語の結末に説得力を持たせるためだけに描かれているのではなく、
一つの物語や視点のもっと先に目を向けるために描かれたのかもしれません。
いかがでしたでしょうか?
全編を通して綺麗なこの映画の結末ついて、なぜ?どうして?と考えてみると、色々な背景が見えてきました。
今回はローマの休日について考察してみました。
今までご覧になられた方も多いと思いますが、今回の考察の参考ページをリンクしておきます。
もしよければ読んでみてからもう一度ローマの休日をご覧になってみてはいかがでしょうか?
●参考ページ
・アナザーストーリーズでの ローマの休日特集を解説されているyachikusakusakiさんのブログ
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/11/27/011230
・BS歴史館 ローマの休日と赤狩り の特集を解説されているブログ
http://urano.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-f077.html
・Amazon ローマの休日 字幕版