1917 命をかけた伝令

2019年に公開された映画1917 命をかけた伝令(放題)についてあれこれ考察してみます。

制作したのはサム・メンデス監督。
「アメリカン・ビューティー」という映画で有名な方ですね。初監督作品でアカデミー監督賞を受賞した作品です。

しかし無知なものでサム・メンデスさんは元々演劇の演出としてのキャリアが先にあるとのことで、元々はロイヤルシェイクスピアカンパニーに在席されていました。
また、演出作品でトニー賞を受賞しています。まあ聞けば聞くほど凄いキャリアです…!(笑)


●映画本編について

1917という映画はワンカット撮影(風)によるシーン展開で注目を浴びました。
ワンカットとは撮影のカット、つまり録画を止める指示を1回しか出さないようにする撮影方法です。
そうなるとシーンが一気に切り替わる、という表現ができなくなります。
Aさんのシーンがあって、場面も時間も変わって「その時Bさんは」みたいに次のシーンが始まる。こんな表現は必然的に無くなります。

「暗転」などで切り替えることもありますが、終演まで切れ目なく続くというのはどこか舞台表現的ですよね。
やはりというか、実は1917の撮影と前後してサム・メンデス監督は舞台の演出に復帰しています。
インタビューの中で「すべてがバレエのように揃わなければならない」とコメントされているので、演劇を意識していたのは間違いないと思います。
そして、厳密なワンカットではなく、途中で時間が経過して夜になりまた朝になると言う描写もあります。
これも照明変化で空間の雰囲気を変えているようで、やっぱり舞台表現的だと思います。

本人も手がけた脚本の1ページ目には「ワンショットで撮影するために書かれた」と記載があり、最初からこの作品を作るうえで絶対的な要素だったようです。
創作において表現方法を最初から重視していたのは演出家らしい性格なのかなとも思いました。

とはいえ、日本でこの映画が大きく取り上げられたのは、同様のワンカット撮影による長尺シーンで大ヒットした「カメラを止めるな!」があったからだと思います。
「カメラを止めるな!」も面白かったですね!
先ほど「アメリカン・ビューティー」の話をしましたが、どちらもそのうちしっかり考察してみようと思います。


さて、この作品はサム・メンデス監督が、幼少期に祖父から聞いた第一次世界大戦の体験談を基に構想されました。
もちろん「戦争とはどのようなものであるか」を描いているのですが、史実に対する解釈を示した作品という訳ではないようです。
登場人物は全て架空の人物で、祖父の物語をそのまま作品にしたわけではない。
監督が祖父や祖父の体験談に出てきた人たちに対して抱いた思いから創られた物語となっているようです。

戦争がテーマの映画なので、本編では予測もできない死の危険が突如襲い掛かります。
一人一人にできることは圧倒的に無力で、希望とは命とは正義とは何だ?と思わせるようなシーンがどんどん続きます。
その様相ををずっとワンカット、つまり1つの視点で追い続けるので、次第に観ているこちらまで戦争を追体験しているような感覚になります。
そういう意味では作品の質も高くアカデミー賞で各種受賞していったのは当然だなと思います。


●1917に対する批判

しかし、この作品ほとんどの部門で高評価なのですが、それに待ったをかける意見もあります。
一番言われているのは「史実とは無関係のフィクション」である点です。
タイトルに年表が使われている時点で過去の話だというのは確定しています。
舞台は第一次世界大戦のヨーロッパ戦線(具体的にはアルベリッヒ作戦から着想とされる)です。

ただ、この話はフィクション。
実際の所アルベリッヒ作戦やその周囲で、映画のように誰かの進言で無益な戦いが起こらずに済んだということはありませんでした。
そうなれば、言われてみると確かにこの映画の過度な評価は、英雄主義的な雰囲気を助長する点で怖いかもしれません。
しかしながら、決して戦争を賛美はしていない。むしろ戦場の生々しさや、大局では決して語られない人間一人の無力さは絶妙に描写されれています。


●劇構造的に見てみると

イギリスの演出家なので、戦争(しかも第一次世界大戦)を題材にした映画となればブレヒト的になるかと思いきや、そうでもないですね。
見えた結果に向かってどう動く(動いた)か?と言う視点で進むストーリーではないです。
また映画では表現しやすいループする表現だと不条理劇のようにもなりますが、冒険を終えて色々な結果が大きく変わっていくのをみるとこれも違う。
むしろ観客がどれだけ作品に入り込めるか?という点を追及している辺り、リアリズム劇と言えるかもしれません。
戦争という大きな舞台だけど主人公は一兵卒で人数も少ないので、その点も世界の中で焦点が絞られているとも言えます。


と、今回は1917という作品について考察をしてみました。

 

 

※参考ページ

 

・映画.com 1917 命をかけた伝令 特集ページ

https://eiga.com/news/20191216/3/

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